YouTube を活用して優れた成果を上げた広告を表彰する「YouTube Works Awards Japan」。2025 年は 5 回目の開催です。
2024 年に国内で配信されたキャンペーンから応募を受け付け、全 8 部門で審査。この記事では、各受賞作品の背景にあったマーケティング課題や、YouTube を通じてどのようにビジネス目標を達成したのかを解説します。
- サントリーホールディングス:グランプリ、Best Brand Lift 部門
- PayPay:Best AI Usage 部門
- ビーケージャパンホールディングス:Best Direct Conversion 部門
- 日清食品:Best Offline Sales Lift 部門
- サントリーホールディングス:Best Shorts Ads 部門
- 星野リゾート:Breakthrough Advertiser 部門
- 日本ハム:YouTube Creator Collaboration 部門
- カネボウ化粧品:Force for Good 部門
職場で起こる『飲みに誘うのムズすぎ問題』で共感を生んだサントリーホールディングス:グランプリ、Best Brand Lift 部門
グランプリを受賞したのは、サントリーホールディングス株式会社による『飲みに誘うのムズすぎ問題』です。
この作品は、YouTube 広告を活用してブランドリフトの向上に貢献したキャンペーンを表彰する「Best Brand Lift 部門」にノミネート。同部門賞を受賞し、さらに全 8 部門の受賞作品から選ばれるグランプリも獲得しました。
若者を中心にお酒離れが叫ばれる中で、高価格帯のビール「プレミアムモルツ」は、そのブランドをさらに確立する必要がありました。そこで、「頑張る自分へのごほうびに最もふさわしいビール」と認知してもらい、実際に手に取ってもらうことを目指しました。
そんな人々の共感を生むために、動画で扱ったのが “ 飲みに誘うのムズすぎ問題 ” です。

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同社は、コロナ禍を経て飲みに行くという文化が薄れ、さらに昨今はハラスメント意識の高まりから、特に「先輩が後輩を飲みに誘いづらくなっている」というシーンに着目。この葛藤をリアルに描くために、実際に同じ事務所の先輩と後輩の 2 人をメインキャストに起用しました。
先輩側の葛藤を心の声で表現するクリエイティブの性質上、音声ありでの視聴が狙いやすい YouTube を選定。話題化や対話の舞台として X も活用しました。
総視聴回数は 2,022 万回、インプレッション数は KPI 比 3 倍となる 4,789 万、総エンゲージメント数は 25.5 万件を記録。また、同社の調査による広告認知率は 10.9% で、これは社内の大成功ラインである 10% を超えました。
多言語に翻訳されて国外でも広がりを見せたほか、ビジネス誌「AERA」で 10 ページの巻頭特集が組まれるなど、社会的にも大きな影響を与えたキャンペーンです。
直接的に商品を想起させる広告ではないものの「現代の上司部下の関係にある『飲みに誘う難しさ』から、その後『飲みに行けることになった先にプレミアムモルツ』を置くことで、『特別なときに飲む』商品であることを人々の頭の片隅に残した」クリエイティブの巧みさが、審査員から高い評価を受けました。
動画と楽曲の全編を AI で生成、今だからこその表現で成果を上げた PayPay:Best AI Usage 部門
新設した Best AI Usage 部門は、AI を効果的に活用した取り組みを表彰する部門です。PayPay株式会社の『PayPay 生成AIを活用した動画クリエイティブ』が受賞しました。
キャッシュレス決済の PayPay は、施策前の時点で登録ユーザー数 6,500 万人を超える(*1)など、すでに市場で大きな存在感を発揮していました。一方で同社としては、これまでの広告が決済サービスでよくある表現にとどまっており、広告効果が一定に推移していた現状を打開する新たな施策を求めていました。
そこで、限られた広告費で最大の効果を獲得するために、広告全編に生成 AI を活用。PayPay を一度も使ったことがない人に向けて、初決済を促すことを目的に配信しました。

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PayPay を利用するきっかけとして多い、送金や割り勘の便利さをカラオケ風の動画で訴求しました。このカラオケ風の映像フォーマットは、配信実績に基づいて、年齢や地域に合わせたバリエーションを量産できるため、生成 AI とも親和性が高いと考えたのです。
クリエイティブを構成する曲と背景映像は、いずれも AI で生成。また制作にあたっては、株式会社サイバーエージェントが提供するツール「極予測AI」を活用して、曲と背景の最も効果が高い組み合わせを予測しました。
1 カ月間配信した結果、広告経由での増分決済数(*2)は、同時期に配信していた従来のクリエイティブを上回り月間 1 位に。また「送金・割り勘」訴求では、生成 AI クリエイティブの導入前と比較して、増分決済数が 307% 増加しました。
審査では、広告における AI 活用に対して慎重になるべきとの意見もありました。一方、AI の活用が進むことで、アイデアを持った人にとっては広告制作のハードルが下がり、裾野を広げることにもなるといった可能性にも目を向けて議論が交わされました。
また、本作品はあえて AI らしさをそのまま広告に利用しています。AI が作れる最大値を理解しているがゆえに、あえて AI らしさを残したクリエイティブを採用したことは、今の時代を逆手に取った表現なのではないか、との声も上がりました。
ファンから空き物件を募集、12 店舗の出店が実現した『バーガーキングを増やそう』:Best Direct Conversion 部門
YouTube 広告によって、生活者の意思決定を後押しして行動を促したキャンペーンを表彰する Best Direct Conversion 部門は、株式会社ビーケージャパンホールディングスの『バーガーキングを増やそう』が受賞しました。
日本におけるバーガーキングの店舗数は、施策時点で市場シェアトップのファストフードチェーンとは大きく差を開けられていました。SNS 上では「私の街にも出店して」という声が多く寄せられていましたが、限られたリソースの中で店舗展開に苦戦していたのです。
そこで同社は発想を転換し、SNS で声を上げているバーガーキングファンの力を借りることに。自分の街の空き物件情報を提供してもらい、成約時には賞金 10 万円がもらえるキャンペーンを展開しました。

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キャンペーンの内容と応募方法をわかりやすく説明するポップな動画を YouTube で公開。誰もが気軽に参加できることをアピールし、詳しい応募方法は SNS で発信しました。
その結果、開始わずか 24 時間で約 2 万件、最終的には 7 万 8,000 件を超える応募が全国から集まりました。その情報を基に次々と出店が実現し(2025 年 1 月時点で 12 店舗)、メディアでも大きく取り上げられました。
キャンペーン全体の予算は 1,200 万円で、そのうちメディア予算はわずか 200 万円。それにもかかわらず、掲載メディアは 278 件、メディアインプレッション 5,801 万回以上、広告換算で 3 億 4,300 万円以上という大きな成果を上げることに成功しました。
審査では、推し活要素を取り入れ、ファンの力を実際のビジネス目標の達成に直結させた点や、競合がやらないであろうバーガーキングらしいアイデアが高く評価を受けました。
『はいよろこんで』パロディで話題に、公開翌日のどん兵衛の売り上げは 29% 増:Best Offline Sales Lift 部門
YouTube 広告を通じて店頭での売上拡大につなげたキャンペーンを表彰する Best Offline Sales Lift 部門を受賞したのは、日清食品株式会社の『日清のどん兵衛『はいよろこんで 利き利きどん』篇』です。
和風カップ麺市場でシェア第 1 位(*3)のどん兵衛は、2024 年 9 月に、麺やつゆ、具材などを東西で異なる味わいにリニューアル。これを広く伝え、特にどん兵衛を指名買いしていない若年層に向けて、キャンペーンを展開しました。

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一般的な広告では、今回のようなリニューアルを “ 自慢話 ” のように描きがちなところ、この広告は「どうでもいいです なんて言わないで」と自虐的に描いたのが特徴的です。2024 年にヒットしたこっちのけんと氏の楽曲『はいよろこんで』の楽曲とミュージックビデオ(MV)をパロディ。原曲と同じく韻を踏んだ歌詞、原曲の MV と 1 フレームもズラさない徹底ぶりなど、思わずツッコミたくなる仕掛けを随所に盛り込みました。
視聴者が自分の見たいものを能動的に視聴する YouTube では、企業のメッセージを押し付けるような広告は敬遠されがち。そこで本作品は「こっちのけんと氏のファンが見たくなるアレンジ版 MV」と位置付け、YouTube、TikTok、X など若年層が利用するあらゆる媒体に展開しました。
特に YouTube では、リーチ最適化で初速の拡散力を高めました。その結果、配信翌日の対象商品の売り上げは、日別 POS 実績によると前日比 29% 増を記録しました。また同社 EC サイトで限定発売された「利きどん兵衛セット」は、わずか 3 時間で 1,000 個すべて完売しました。
配信の 4 日後には、地上波テレビの音楽番組で一度限りのテレビ CM も放送。YouTube は、CM を見た人が再び聴きに来る受け皿としての役割も果たしました。
審査員からは「本人による二次創作を通じた YouTube らしい遊び心」や「思わず東西 2 つとも買いたくなるような構成」を評価する声が上がっていました。また、原曲 MV の公開は 5 月末で、この広告の配信開始は 10 月。トレンドを取り上げるスピード感に、審査会では驚きの声も上がっていました。
「耳からのブランド体験」でテレビと異なる層にアプローチ、サントリーホールディングス「金麦」:Best Shorts Ads 部門
Best Shorts Ads 部門は、YouTube ショートの特性やトレンド、視聴者のインサイトを捉えたクリエイティブで成果を上げたキャンペーンを表彰する部門です。サントリーホールディングス株式会社の『金麦_家路言』が受賞しました。
同社の「金麦」は、ビールと発泡酒の中間にある、いわゆる「新ジャンル」と呼ばれるカテゴリの商品です。2026 年の酒税法改正では、新ジャンルを含めたビール系飲料の税率が一本化され、ビール系飲料の選択の自由度が増すと考えられています。
そのため金麦では、改正に先駆けて独自のブランドイメージを確立することが急務でした。ただし、ビール飲用者の中でも特に若年層では顕著に広告を避ける傾向にあることがわかっていたため、広告への抵抗感を乗り越えるアイデアを求めていました。

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同社は、YouTube 上で作業用の音楽や BGM が人気を集めている点に注目し、「耳からのブランド接点」を戦略に掲げました。人気の声優を起用し、帰宅時間に耳からの癒やしを届け、晩酌気分を自然に高める狙いです。
そのため、「仕事中の ON から OFF へと変化していく帰宅時間」として 17 時 ~ 24 時に時間帯を指定して、リーチ効率に優れる YouTube ショートで配信。動画リーチ キャンペーンも活用しました。
狙い通り若年層を中心に認知を広げることに成功し、20 代 ~ 40 代での広告認知は目標比 50% 増でした。また認知獲得にとどまらず、キャンペーン全体での投資対効果(ROI)も、目標比で約 170% 向上しました。
審査員からは、生活者のインサイトに加え、その帰宅時間帯というタイミングのインサイトを掛け算した点が優れているとの声が上がりました。また、ビールの注ぎ方などの動きや文字もすべて縦型のフォーマットを意識しているという YouTube ショートに合わせた工夫も高評価でした。
若年層を引き込むショート戦略、日本ハム「シャウエッセン」:YouTube Creator Collaboration 部門
クリエイターとのコラボレーションで成果を上げたキャンペーンを表彰する YouTube Creator Collaboration 部門を受賞したのは、日本ハム株式会社の『シャウエッセン ショート動画プロモーション』です。
シャウエッセンは、ウインナーカテゴリで購入金額 1 位(*4)のブランドですが、既存顧客の中心は 50 代以上。そのため、20 代 ~ 30 代のデジタルネイティブ世代を取り込むこと、家庭での購入機会を増やすため 40 代に届けることの 2 つを目標に、YouTube 広告を戦略的に活用しました。
従来のテレビ CM とは明確に役割を分け、YouTube 広告では若年層向けにエンタメ性の高いクリエイティブでブランド接点を増やす設計としました。

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シャウエッセンの特徴である「パリッ!!とした食感」と「ジューシーな味」の 2 つを訴求軸として、クリエイティブを展開。それぞれの訴求軸に合った個性を持つ YouTube クリエイターとコラボし、10 本のショート動画を制作しました。
YouTube ショートを起点に、TikTok や X などにも展開。店頭の POP にもクリエイターを登場させるなど、オンラインと実店舗の相乗効果を狙いました。
YouTube ショートを中心に据えたのは、ショート動画の視認性と拡散力に期待したためです。また一度視聴した人に関連動画が継続的に表示されることを期待して、YouTube 上で「シャウエッセン」の話題を継続的に生み出す戦略を採用しました。
YouTube ショートの再生回数は 900 万回を超え、20 歳 〜 49 歳を対象にしたブランドリフト調査では、商品認知が 5.4 ポイント、詳細認知は 16.7 ポイント増加。興味関心、購入経験、直近 1 週間購入、購入意向の指標は、いずれも 20 ポイント以上向上するなど、あらゆる指標で大幅なブランドリフトを達成しました。
クリエイターごとに訴求軸を変えている本作品について、審査員からは「単に有名なクリエイターに依頼するだけでなく、企業とクリエイターとの間のコミュニケーションに工夫と戦略が見られる」との声が上がりました。また「広告だとわかるのに、最後まで見てしまう動画の構成や表現」も好評でした。
26 のクリエイティブを使い分けた星野リゾート『テンションあがる"街ナカ"ホテル OMO』:Breakthrough Advertiser 部門
蓄積された実績がない中でも YouTube 広告に果敢に挑戦し、戦略的に成果を上げたキャンペーンを表彰する Breakthrough Advertiser 部門。受賞したのは、株式会社星野リゾートの『テンションあがる"街ナカ"ホテル OMO』です。
同社が展開する都市型ホテル「OMO(オモ)」は、街の特徴を活かした客室やグルメ、ツアーなどを魅力とした新ブランド。当初はテレビ CM でブランド名の刷り込みを行いましたが、認知は得られても正しいブランドイメージが伝わらず、利用意向につながらないという課題に直面していました。
この課題を解決するため、「質の良い認知」を獲得する新戦略を策定。都市観光を好む人々は「旅行スタイル(誰と行くか)によって求めるものが変わる」というインサイトを発見し、これに応えるクリエイティブを制作しました。
キャンペーンの独創性は、26 のホテル利用シーンを撮影し、組み合わせることでさまざまな訴求ができる「マッチング CM」の開発にあります。顧客層を「女子旅層」「カップル旅層」「家族旅行層(子供小学生以下)」「家族旅行層(子供中学生以上)」に細分化し、それぞれの旅行スタイルに合わせた内容を訴求することで、自分ごととして捉えてもらえる工夫をしました。

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メディア選定では、配信先を細かく指定できる YouTube のみに絞り、TrueView リーチ広告によるリーチ最適化と、TrueView インストリーム広告による視聴最適化を併せて実施。旅行への関心が高いユーザーに対して効率的にブランド理解を促しました。
前回までのテレビ CM 配信時の調査データを基に、今回のキャンペーンでの KPI を設定。同程度の認知を維持しながら、利用意向を 5% 向上させることを目指しました。
実際、テレビ CM と同程度の広告認知(28.0%)を獲得しながら、広告好意度は 43.2% と前回のテレビ CM から 10.1% 向上。「ワクワク感がある」というイメージは 32.9%で、これも前回より 13.5% アップしました。さらに、利用意向は 8.9% アップの 44.4%(*5)。YouTube だけでも効果的なブランドコミュニケーションが可能だと実証しました。
審査では、「ワクワク感など、テレビ CM だけでは達成できなかった認知の先にある指標で成果を上げた」点が高い評価を集めました。
「美」から「希望」へ、化粧品の新たな価値を提示したカネボウ化粧品:Force for Good 部門
収益やビジネスインパクトを超え、社会的意義のあるコミュニケーションを展開したキャンペーンを表彰する Force for Good 部門は、株式会社カネボウ化粧品の『I HOPE. KANEBO』が受賞しました。
同社の上位ブランドである「KANEBO」は、コロナ禍による売上減少や競争の激化を受けて、2020 年にリブランディングを実施。「美ではなく希望を語る」ブランドとして再スタートを切りました。リブランディングから 4 年目に実施した本キャンペーンでは、化粧品の本来の価値を再定義しながら、ブランドへの共感を商品の認知や購買へとつなげることを目指しました。
口紅や美容液などを通じて「人間まるごと」を肯定していくというブランドの思想に共感してもらうために、この広告では、従来の化粧品ビジネスの外側にいた人たちにもメッセージを届けました。

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クリエイティブとしては『I HOPE. 希望の口紅篇』と『I HOPE. 希望の美容液篇』の 2 本を展開。「食べることは、生きること。口紅を塗ることも、生きること」「私たちは、化粧品を売っているのではない。希望を売っている」といったメッセージで、美容品の枠を超えた、人間の感情や社会に関わるブランドの思想を表現しました。
YouTube 広告では 60 秒の長尺素材で質の高い認知獲得を狙い、テレビ CM と相互補完的に活用しました。
たとえば『希望の口紅篇』は、長尺ながら視聴完了率 55.3% と高い数値を記録。商品認知のきっかけとしては YouTube 広告が 46.2% と、各種施策の中で 1 位に。また、予約・先行発売 6 日間で販売目標数を完売し、プレステージ口紅市場でシェア 1 位を獲得する(*6)など、社会的な切り口ながら成果につながりました。
審査員からは「『I HOPE』というテーマが、社会課題の投げかけだけでなく、希望を持たせるところまでもってきているのがまさに Force for Good を体現している」「ブランドリフトと Force for Good の両方を兼ね備えている」といった声が上がりました。
以上、グランプリと部門賞を受賞した 8 作品を紹介しました。
取り上げた受賞作を含むファイナリスト 51 作品は、以下の PDF に掲載しています。キャンペーンの背景にある課題から、YouTube 広告を活用した狙いやそれを生かしたコミュニケーション戦略、実際の成果まで、詳細をまとめたので、広告の設計やクリエイティブ制作に活用してみてください。
ファイナリスト 51 作品の PDF はこちらから